世界サッカー界の至宝、ジネーデイ・ジダンは、今季から窒息しそうな勝利至上主義の"カルチョ"から抜け出し奔放な"リーガ"に君臨しているレアル・マドリッド移籍した。豊潤な円熟したプレーにさらに磨きが掛かってきた。
世界中にキラ星の如くプレーヤーが存在するが、ジダンは見て楽しい数少ない選手の一人だろう。世界中のサッカーファンが、敵味方を超えてジダンの妙技を期待しているといっていい。
もちろん、連続優勝を狙うフランスのキープレーヤー、精神的な支えであることは言うまでもない。ところで、サッカーに不運な怪我はつきものだが、フランスもピレスの故障と言うアクシデントに見舞われた。
今季プレミヤリーグ外国人最優秀選手に選考されるだろうという矢先、3月23日、アーセナル対ニューカッスル戦で不意な事故が起きた。
この日、ピレスのスピード、テクニック、鋭い勘が冴えに冴えた。角度の狭いところから1ゴール、さらに2アシストを演出絶好調だった。ピレスは本能的に、接触もなかったスライでイングタックルを軽くジャンプでかわし着地した瞬間、左膝靭帯切断の重傷を負った。この事故でピレスのワールドカップ出場は完全に消滅した。あの無表情なメール監督も大慌ての事態となった。キーン、アルベルテイーニ、ベッカムの骨折など、ワールドカップ直前になって事故が多発している。
4月17日、フランス対ロシア戦、ドリブルで突進するジダンは後方から強烈なタックルを受け、一回転して宙に飛んで芝生に叩きつけられた。時期が時期だけに一瞬、スタッド・ド・フランスの観衆が息を呑んだのは言うまでもない。
幸いにジダンはなにごともなくプレーを最後まで続けた。が、ジダン抜きでフランスが連続優勝可能だろうかというのがこのテーマだ。ルメール監督は当然のことながら欧州選手権後、選手のテストをしばし試みてきている。基本的な布陣は4―2―3―1だが、中心選手を変えると攻守のバランスが微妙に変わってくる。
特に、ジダンの影響力と控え選手とのギャップが大きく、チームに与える影響力も違うためにオプションの採り方も非常に難しい。その上ペレスが使えないと決まった現状では、ルメール監督のこれまでの構想も大きく後退、新たな中盤布陣を作らなければならない。その前にDF陣を紹介しておこう。
4年前とブラン以外変動ないベストメンバーは、GKバルテーズ(29才、代表歴46回)、ほぼ不動のDF陣は右からチュラム(30才、71回)、ブランが昨年引退してからルブッフ(34才、45回)、主将のデサイリー(34才、91回)、リザラズ(33才、72回)。控えに左右のサイドバックに使えるカンデラ(29才、34回)、ちょっとした試合中のミスを起こす不安材料があるルブッフに代えて、若手のクリスタンヴァル(22才、3回)、シルベストラ(23才、10回)らが選考される公算が強いが、いかんせん、この二人の国際試合経験が少ないのが難点だ。
|
 |
最悪のケースは、チュラムがデサイリーと組んでセンターバック、カンデラが右のサイドバックと言う手もある。対ロシア戦で後半クリスタンヴァルがルブッフと交代テストをしたが、デサイリーがゼスチャーでアドヴァイスをしばし飛ばせていた。
中盤の底は不動のペテイ(32才、55回)、対ロシア戦でアモロスの持つ代表連続35戦出場記録に並んだヴィエラ(27才、50回)で決まっているが、マケレレ(28才、7回)、中盤左サイドでプレーが多いジダンサポート役のペテイにボゴシヤン(31才、24回)の復帰か?いずれにしても、堅固なフランス防御を崩すことは並大抵のことではない。
新構想はありえない、ヴェテラン復活か?
4月17日、対ロシア戦に攻撃陣はアンリエ(24才、34回)、ジダン(30才、72回)、ピレスの代わりにジョカエフ(34才、77回)を起用した。ワントップにアネルカ(23才、27回)だった。ジョカエフ―ジダンが先発出場したのは、00年9月2日対イングランド戦以来のこと。それまで右サイドはウイルトール(28才、35回)の出場が多かったポジションにジョルカエフ、アネルカもトレゼゲの控えで久しぶりに先発した。
ジョルカエフはドイツでは監督と合わずベンチ、今シーズン半ばでボルトンに移籍後、本来の調子をやっと取り戻して代表復帰した。しかし、いかんせん34才の高齢が気にかかる。かつてのマラドーナの影響力と同じで、若手が育つチャンスが少ないのだ。カリエールを使ってみたが、チームに入ると目立って線が細い。ピレス使用不可能な現況では、もし、ジダンが不意の事故で試合に出ることができない場合、攻撃第2オプションが重要なキーポイントになってくる。
石橋を叩いても渡らないといわれるほど慎重なルメール監督は、ジョカエフを引っ込め、残り少ない時間でミクーをジダンと並べてテストした。ロシアの中盤が強力で、フランスと五分の戦況でマレー、ボゴシアンも登場した。
前大会でジダンが2試合出場停止処分を受けた時、ジダンの抜けたパラグアイ戦を攻めあぐね、延長でブランのゴールでやっと勝った。ジョルカエフの起用は、4年前の第2オプションと全く同じパターンだ。ジョカエフが攻撃の軸になる懐古的な布陣が復活した。
それは、フランスは4年前と変わっていないかというと、この歳月に選手は経験をさらに積み重ね、円熟したプレー、精神的な強靭さが武器にさえなっている。ミスは極端に少ない。安定度は4年前より遥かに上だ。また、アンリエ、ウイルトール、トレゼゲ、アネルカ、マレーらの個性ある強力な若いアタッカーが台頭し、前大会より破壊力は増している。かれらの特徴を生かした使い方は最終選考の頭痛の種だろう。
 |
こうしてみると、ジダンの抜けた場合の穴埋めが完全とは言えないにしても、高い個人能力と堅固なチームワークで連続優勝の可能性は未だ残されているだろう。レギュラー8選手が30才を越える高齢化だ。
ただし、フランスが勝ち進むと、準準決勝でブラジル、準決勝でアルゼンチンとの熾烈な試合で生き残れば決勝戦を迎える。精神、肉体消耗が激しい長丁場のトーナメント、高温多湿の気象状況下での激しい運動量でどれだけ耐えられるだろうか。それだけではない。たとえ力が落ちても、運を大きく呼び込めるほど実力が伴うだろうか。
4月16日、フランス協会は2004年6月までルメール監督継続を発表した。
|
|