【ドイツ戦に見る新生フランスの実力】
ドイツ選手の告白

R・フェラー監督
「総ての局面でフランスが優れていた。ジダンのゴール後、ドイツは成すこともできず、わずかチャンスらしきものがあっただけ。フランスが勝ったのは当然なこと。単に、選手が優れているだけではない。フランスは世界一、 自信の上に絶妙なチームワークがある。現在のフランスチームは、90年代のドイツチームを彷彿する」 J・ジェレミス(DF後半MF)
「両チームの違いは、良いチームと世界トップチームの差。フランスは、素晴らしく完成されたチーム。高い技術に頑強な体力のポテンシャルを感じた。わずかなミスは、たちまち致命的なカウンターを受ける。怖いチームだ」 M.ショール(MF)
「両チームの力の差は明確だ。見た通りわれわれには限界ある。プレッシングが激しく全く動けない。ぼくが1―1 になるチャンスを潰したが、もし、あそこで同点に追いついたとしても、フランスは直ぐに2点目を獲得する力が ある。こんな経験は初めて、試合中になにかをしなければと焦ったが、現実にはなにをすることも不可能だった」 C.ヴォーンス(DF)
「ドイツとフランスは同じレベルのプレーではない。違う世界のサッカーだ。ドイツは10年遅れている」

上記は、フランスがドイツを迎えて、今世紀初の親善試合を1-0で勝利した直後のドイツ選手の談話だ。ワールドカップ3回優勝、世界のサッカー大国のドイツ選手にこう言わせたフランス代表の実力を改めて見せつけられた。 フランス代表試合は、昨年11月15日、対トルコ戦を0―4で勝って以来3カ月半振り。これで10連勝。フランスが あらゆる局面でドイツを圧勝、終始子供扱いにしたと言っても過言ではあるまい。それほどフランスのプレーは華 麗で、個人能力の高さに流れるようなコンビネーションに死角はなかった。ドイツ選手はなすことを完璧に封じら れた。
デサイリーは『やらなければならに仕事はできた。ドイツは、ヤンカーにボールを合わせてくるだけの単純 な攻めだが、積極的な戦いをした』。中1日の休養で超人的なプレーを見せたジダンは、『得点は楽し いもの。もう少しスペクタクルな展開ができただろうが、ドイツの攻撃を封じ、スペースを与えなかった』と、してやったり。
代表選手の多くは、各国リーグトップクラブの終盤戦、大事な欧州クラブ選手権で超多忙の時。肉体は過密スケジ ュールで疲労している。親善試合にモチヴェーションを高揚することはなかなか難しい。が、両チームは、相当な気構えでプライドを掛けて激突した。
ルメール監督2002年ワールドカップに向けてのブループリントの片鱗を疲労した。ルメール監督は、ジャケ・ワ ールドカップ優勝監督の財産をなりふり構わず継承。ワールドカップ、欧州選手権の覇者として、否応なく常勝を課せられた宿命を担う。フランスの保守に、さらに、石橋を叩いても渡らない監督の性格なのか?人材、アイデア不足なのか?敗戦が怖いのか?無表情でぼそぼそ小声で難解の言葉で人を煙に巻いてきた。それだけに、次回ワールドカップに向けての新構想が期待された。

DF陣のブループリント

新世紀最初の試合と言って、フランス代表に抜本的な変更が生まれたわけではない。むしろ、基本的に完成されたチームのドラステイックな変更は、極端に難しくリスクが伴うものであり得ない。それでも代表に呼ばれた珍しい顔は、ラメー(28歳,代表歴4回、GK、ボルドー)マレー(27才、1回、リヨン)、マケレレ(27歳、6回、レアル・マドリッド)、サニョール(23歳、1回、バイエルン)、シルベストラ(23歳、0回、マンチェスター・ U)らだ。
昨秋デシャン、ブラン、ラマらが引退した。『20世紀最優秀キャプテン賞』を受賞したデシャン、ブ ランの2人の引退は、チームに及ぼす影響は半端ではない。
それでも滅多なことでルメール監督は、完成、円熟したチームをいじらない。今回たまたまチュラム、クリスタンヴァル(DF、モナコ)が故障のため、否応なく守備を試験的な布陣にした。先発に、今回が代表試合2度目の若者。今季モナコからバイエルンに移籍、たちまち右サイドバックの定位置を獲得した小柄なサニョール。ルビュッ フは『俺を使え!さもなければ代表辞退』と、脅かしを入れ、ブランの後釜に居座った。ルビュッフの問題は、年齢からくるスタミナ、所属クラブのチェルシーの監督と反りが会わず、試合から遠ざかっているのが難 点。主将デサイリーが、ただ一人DFラインのレギュラーポジションが確定している。残りの3人は、総て流動的。堅実なプレーも見せたサニョールは、ほぼ合格だろう。右サイドバックを絶好調のカンデラ、左右のサイド、 ウイングもプレーできる器用な男。俊足、華麗な高度のテクニッシャンの持ち主、見て楽しい選手。ここにはリザ ラズも健在。後半リザラズが入るとカンデラがサニョールに変わって右に廻る。左サイドの旧ボルドーコンビ、リ ザラズ、ジダン、ドガリーが復活する。面白いように、ピンポイントパスがズバズバ決まる。前後左右にボールを 回し、一挙に攻撃を仕掛ける。ドガリーが絶好調で復帰した。

中盤は、華麗な広範囲な攻守の繋ぎをクリエイトするペテイ。デシャンの後に『いつかぼくの出番が来る 』と忍耐強く待ったヴィエラの2枚デイフェンシブハーフ。難を言えば、ヴィエラがデシャンの域に達していないことだろう。ミスが出る。このポジションには,レアル・マドリッドで成長に著しい、スペインで高い評価を受ける小柄なマケレレがいる。万年控えに終るか?カレンブーもいるが、ペテイとヴィエラは、ほぼ不動だろう。 国際試合出場選手は、少なくとも、代表歴が25回以上の国際試合経験を積むことが必須条件だと言われる。その条件を満たす時間はとうに過ぎている。それを知らないルメール監督ではあるまい。と言うことは、代表に新しい選手が入るチャンスは狭き門。基本的に、現勢力を維持する方針だろう。そこにフランスの世代交代の難しさが見ら れる。
対ドイツ戦では、ワントップのアネルカ、左にドガリー、右にヴィルトール、真中にジダンの攻撃布陣だった。要 するに,1―2―1―2―4とでも言えよう。これが2―1―3―4の可能性もある。トレゼゲは故障だったが、豊富な若い才能豊かな攻撃陣、ジダンとの絡みが難しい。『ボールを持つことが無性に楽しい男ジダン 』。ドイツ選手はジダンに暫し翻弄された。ジダン阻止は、足を狙って削る以外に手段は無し。
後半、観客からアンリエコールが巻き起こり、アネルカに変わった。中盤の右サイドでピレス、マケレレ、DFシ ルベストラもテストした。観戦したトルシエも、『フランスは驚くほど攻撃的』と言っていたが、華麗 なフランスの波状攻撃を向かえる構想は?
ルメール監督は『今日のDF陣は、最後の10分間の耐えることがキーポイント。サニョールは落ちついた プレー。シルベストラも短い時間だが問題なくプレーした』と、満足そうだった。

世界の実力と日本代表戦

フランスから見た日本は、サッカー後進国のアジアカップで優勝しても、高い評価には決してならないのが常識。 極端な例を上げるなら、次回ワールドカップの開催地、日本と韓国を混同した知識の人も存在する。フランス対日本親善試合は、ルメール―トルシエらの『フレンチ・コネクション』で決定した。このレヴェルの選手 は、通常対戦相手によって、モチヴェーションはグ〜ンとダウンするのが目に見える。選手、チームの戦闘モード が本能的に自己制御する。フランスが日本選手を迎えて、ドイツ戦並な緊張感、集中力を漲らせたモード変換が難 しい。フランス選手に、『がんばれ』と言っても無理なこと。フランスがカサブランカの決着をつけるため、真剣な試合になると言う人もいるだろうが、とんでもない世間知らずの戯言。あるフランス選手は、日本代表監督がフランス人だという事を知らなかった。カサブランカでのフランス代表選手は、欧州選手権に向けての気 分転換、のんびり観光ムードだった。しかし、今度はホーム試合。観客の手前、まさか2軍選手で向かえはしない だろが、まずは軽くスパーリング程度の相手。得点するまで少しはピリッとプレー、立ちあがりで勝負は決めるだ ろう。残り時間は、ルメールのフォーメーション、選手起用テストチャンス。次に控えているスペイン、ポルトガ ル戦の前哨戦として考えるだろう。フランスの観客は変わっている。自国チームが気の抜けた不様なプレーをすれ ば、猛烈なブーイングで野次り、退屈紛れでウエーヴを起す。『判官びいき』観客は日本チームの応援を始めるだろう。しかし、これは喜んでいられない。見下げられた同情なのだ。怖いのは、フランスが日本に合わせて、中身の薄い試合になってしまうことだ。主催協会も相手がサッカー大国ではない場合、出費を最低限に押さ えるため地方開催を考えるのが常識。ところが、日本戦はテレビ放映権をたっぷり高額で日本に売れる。噂では、 日本側が前回ワールドカップ決勝戦会場を条件に、前例のない高額な放映料金を支払ったとか?この手の金をばら撒くのは、日本が最も得意とする手段。ところが、困った事に、ファンの反応が鈍い。巨大な器を埋めるために、 フランス代表試合で最低入場料金が極端に安い50フランに設定したが、それでも、協会は四苦八苦。
最近、『日本代表は、ワールドカップ決勝戦進出の可能性あり!!』と、ぶちまけたトルシエ節。国内で勘違いを起している人も多いだろうが、対フランス戦で世界の壁に直撃することも良い薬になるだろう。
(↑学研・ストライカー2001年4月号掲載)
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