【室内の華フィールド種目の激戦、】

英国の中央部にある人口100万人のバーミンガム。市の中心地を走る運河のほとりのNIA(国立室内アリーナ)で、第9回世界室内選手権大会が3月14〜16日開催された。

ここはスポーツ都市として名高い。サッカーリーグの発祥地。アストンヴィラ、マンチェスターシティ、ウエスト・ブロムウイッチら、3クラブがプレミヤリーグで争う。また、蒸気機関車の発明者ジェームス・ワットを始め、酸素、ガス灯など、「産業革命」発祥の原動力に数々の貢献を果たしている。

いずれの室内大会も、トラック設備そのものに特徴が大きく影響するため、スプリント種目に有力選手の欠場は避けられない。

対イラク開戦直前の緊迫した情勢の中、警備体制などが心配されたが、連日満員の観衆が詰め掛け大会を盛り上げた。最終日、女子棒高跳びフェオファノワが4m80をクリアーして世界新記録を樹立。また、地元ハンセン選手が15mの大台に乗せて逆転優勝、涙、涙の歓喜。男子200mでディヴォーニッシュらの地元勢の優勝、コリン・ジャクソン18年間のキャリアに終止符を打つ最後のレースで観衆の熱狂は頂点に達した。

大会のハイライトなどを含め、種目別にまとめてみた。参加国145カ国、参加選手数618人(男子328人,女子290人)

男子60m 伏兵ガトリン優勝、未完の大器か、

地元期待のスプリンター、ジェイソン・ガートナー(27歳)、準決勝でマーク−ルイス・フランシス(20歳)らが、それぞれ6秒55、6秒54のタイムを出して好調振りを示した。

しかし、大会前から、「世界をアッと言わせてやる!」と公言していたジュスチン・ガトリン(アメリカ、21歳)は、情け容赦なく地元勢を振り切って圧勝した。「60mレースはスタートが大切。うまくダッシュできたし、コーチが優勝できるといってくれたが、信じなかったわけではないが、ただベストを尽くしたまで。地元選手に勝って大変に嬉しい。今夜は眠れそうにもない」ガトリンの走りに特徴がある。

スタートから顔をほぼ地面に向けたまま深い前傾姿勢を保ち大きな手を振るのが特徴だ。上体をスムースに起こし始めると加速がグ〜ン加わる。どこかで見たような印象を受けたと思ったら、マリオン・ジョーンズのスタイルだ。

今季から元マリオン・ジョーンズのトレボー・グラハム・コーチに指導を受けている。全米ジュニア史上初の100,200m,110mh3冠を獲得、100mベストタイム10秒08、現テネシー大学生。言うことも大物振りを発揮した。「オレは誰も予想しなかった優勝者だ!来年は世界記録を狙うぜ!」と、豪語した。2位のキム・コリンスは、準決敗退かと思いゼッケンを観衆にプレゼント。慌てて別のものを貰う。「まさか2位になるなんてミラクルさ!」3位のガードナーは、「先週から故障で満足に走れる状態ではなかった。3位になれたのもファンの熱い声援があったからこそ! 」と、責任を果たしてホッとしていた。

男子800m、 クラメナッカー、キプケターを征す

残り1週を残して、滑り出すようにして先頭に飛び出したキプケテール(デンマーク)。クラナッカー(アメリカ)、レイナ(スペイン)、ブンゲイ(ケニヤ)らが一挙に上がったハイペースで追走。必死の形相でキプケターが逃げる。その後方にぴたりと外側に寄せたクラナッカーは、タイミング良く、スピードに伸びがないキプケターを難なくホームストレッチで抜き1分45秒69の自己新記録で優勝。「うれしいショッキングな喜びだ!調子は良かったが、まさか優勝できるとは思いもしなかった。最後の周回は、とにかく前について行っただけ」ナイジェリア人の父親、ドイツ人の母親を両親に持つアメリカ生まれ。800と1500mの両種目を得意とする。昨シーズン、エルパソからアリゾナのツクソンに移り、ブルンディの友人、ドゥイマナと一緒に練習を開始。ロス五輪800mの優勝者クルツ(ブラジル)を育てたオリヴェイラコーチの指導、アドバイスも受けて大ブレーク。800mを1分43秒92まで記録を伸ばす。久々のアメリカ期待の中距離ランナー。「世界選手権でメダルを狙う」と断言。一方、破れたキプケテールは「まさかあそこからデヴィッドが出てくるとは予期もしなかった(苦笑)あそこで負けてはダメ。最後まで、スピードが維持できなかった」と、笑いながら敗戦をアッサリ認めた。

コリン引退レースに手加減は無用だ

アレン・ジョンソンは言う。「今年の冬は、今までより少し室内競技に出場した」予選は1着で無難に通過した。ジョンソンは「明日の試合はコリンの最後のレースになることは知っている。が、簡単に勝たせない。コリンがこのような形で第一線から引退することは大したもの。通常の引退レースは、必ず勝てるように仕組むものだが、コリンは世界選手権大会でトップ選手相手の真剣レースを選んだ。コリンらしい引き際だ」と、ジャクソンを称えた。ジョンソンは、準決勝を7秒57の4位で通過。

シドニー五輪優勝者のガルシア(キューバ)、オリヤルス(ラトビア)、ジュニア世界記録保持者の劉xx、ジャクソンらが紙一重の差で遅れた。しかし、決勝スタートをピシャリ決め、今大会ベストタイム7秒47で95年バルセロナ大会以来2度目の優勝。ガルシアは調子を上げてきたが追いつかず7秒49で2位。観衆はコリン・ジャクソン、ジョンソンとウイニングランの2人に捧げるスタンディングオベーションが長く続いた。その陰に隠れてしまったが、19歳の中国選手劉xxが7秒52で3位入賞したのは凄い。昨年、ローザンヌGPBレースで24年ぶりにジュニア世界新記録(13秒12)を塗り替えた。その後、目立った活躍もなかったが、今回世界一流選手と直接対決して銅メダル活躍は大きな自信となろう。

男子走り幅跳び、冷徹な勝敗を分けた1センチの明暗

この大会5連勝を飾ったイアン・ペドロサが故障のため欠場したが、ドゥワイト・フィリップス(26歳、米国)、ヤゴ・ラメラ(26歳、スペイン)の2選手の熱い優勝争いは熾烈だった。フィリップスは2回目に8m23を飛び、さらに最終ジャンプが8m29と伸ばして優勝をほぼ確実にした。優勝したフィリップスは「5回目にふくらはぎが軽く釣ったが、最後の跳躍の着地が失敗しなければ距離はもっと伸びたはず。自己新記録を2回出して優勝」と、口も滑らかにご機嫌。ラメラはコンスタントに8mを越えるジャンプでフィリップスを追う。飛ぶごとに首を傾げるラメラは「助走で左ハムストリングを故障、痛みがあっていつもの助走ができなかった」。一発がなかなか引っ掛からない。ラメラの最後の跳躍は、悲願の逆転優勝にかける会心の一発だった。が、慎重な計測の結果は8m28!わずか1cmが勝敗の明暗を分けた。優勝を確認した歓喜のドゥワイト、かれとは対照的にラメラは敗戦が決定、泣き崩れる。ミグエル・ペイト(24歳、米国)は、頭から連続3回ファオルを続けたが、6回目に8m21を飛び3位に食い込む健闘を見せた。久々にアメリカ選手の活躍が目立った。

男子砲丸投げ、マルティネス、必殺の最終投擲

スリムになった優勝候補筆頭のケヴィン・トー(35歳、米国、今季21m70)は、2回連続ファオル、3回目は19m35と記録は伸びず。大声で喚いたが、どうしたものか予選落ち。21mを越えた3選手の優勝争い。マニュエル・マルティネス(28歳、スペイン)、ジョン・ゴディナ(30歳、米国)、ユリティ・ベロノグ(29歳、ウクライナ)に絞られた。最初にいきなり飛び出したのは21m13を出したベロノグだが、マルティネスが2回目に21m14を記録して追い抜く。2回連続ファオルを続けたゴディナは、3回目の投擲で21m23を記録、トップに踊り出た。しかし、ゴディナはファオルが多く、この記録がベストで連勝ならず。マルティネスはコンスタントに21mを越える安定した投げを見せたが、ゴディナの記録を越えることができず、最終投擲まで待たなければならなかった。今季の室内成績は7戦6勝、2位が1回の好成績だ。身長は185cmと低いが、スピードが記録更新の秘訣だ。自信満々の表情から、放たれた砲丸は21mラインを遥かに越えた21m24だ。ゴディナの記録を1cm越え、マルティネスが吼える!!今季は円熟味が増した投擲で、アメリカ選手に真っ向からの挑戦を期待できよう。

男子三段跳び、オルソン土壇場で逆転勝利

少数精鋭を送り込んだスゥエーデン選手は、男女走り高跳び,女子5種でそれぞれ優勝。ゴールドラッシュ!クリスチャン・オルソン(23歳)も、優勝を期待された一人。どうしたわけか、全員出だしが悪い。3回の跳躍までジョナサン・エドワーズ(36才、英国)がただ一人17m01の低調な記録で前半をリード。オルソンは言う。「最初の3回は原因不明の不調。リズムに乗れなかったが、やっと三段跳びができるようになった。(苦笑)」この跳躍が発火点になり、5回目にオルソンは17m31を飛んでリード、エドワーズも17m19と記録を伸ばし2位につけた。それまでごく平凡な記録、テンションの低い優勝争いから、最後の跳躍で劇的なメダル争いが始まった。それまで4位(16m92)だったワルタ―・デーヴィスが17m35を飛び首位に踊り出た。クールなオルソン最後のジャンプは、スピードに乗った美しいフォームで17m70を飛び優勝をほぼ確定。オルソンは言う。「同僚3人がすでに優勝している。プレッシャ―もあったが、4回目の跳躍で本来の感触を取り戻したので、それほどナーバスになってはいなかった。勝てるような気がしていた。(屋外シーズンのことを聞かれて)昨年以上の記録を伸ばし、世界選手権大会優勝が最大の目的です」オルソンはエドワーズに欧州選手権、室内世界選手権に2連勝。世代交代が次第に明確になってきた。しかし、観衆は地元の英雄、エドワーズの最後の跳躍に劇的な逆転優勝を期待したが、記録は伸びず平凡な17m00。ところが、ヨルビ・クエサダ(29歳、キューバ)が17m27を飛んで3位に浮上、エドワーズは4位に転落。エドワーズはよほど室内世界選手権と縁がないのだろう。かれが取り損ねた唯一タイトルがまたしても遠のいた。

男子7種、王者不振でパパスが優勝

髪の毛を長くしたトーマス・ドヴォルジャーク(30歳、チェコ)と、砲丸の試合中話す。「足の状態はよくなった。今回3人目の子供が生まれるので気が気じゃあないね。調子も夏までにはなんとかなるだろう」と、なんとなく精彩がなかった。一方、10種目で夢の9000点を越したただ一人の男ロマン・シェブルレ(28歳、チェコ)は「南アの練習は順調に消化した。大会2週間前に体調を崩して一時は出場を辞退したが、1週間前に出場できる状態になったので、最悪の状況でどこまでやれるかを見るのもいいと思ったから・・優勝はとても無理だね」と、屈託ない。エリック・ノールも調子が悪いと聞いた。案の定、試合が始まると優勝候補選手がパッとしない。変わりに、プロレスの父親を持つ久々のアメリカ選手のトム・パパス(26歳)の活躍が目立った。7種目中5種目に自己記録を更新、得意の棒高跳びが4m90に終わったが、史上8位の6361点を挙げて優勝。パパスは「このような強豪、世界選手権3度優勝者、五輪優勝者、世界記録保持者らと一緒に戦うのは始めて。勝てたのが信じられない。屋外シーズンが待ちどうしい。世界選手権はメダル獲得を狙う」と語る。

貫禄を見せたゲブルセラシェ

エチオピア長距離選手の理想像はマラソンにある。ゲブルセラシェでさえ、五輪マラソンで優勝することが「夢」だ。昨年のロンドンマラソンに出場、初マラソン世界最高記録を樹立して3位になったが、爪先走法からくる脚にくる負担、35km以上の練習不足からアキレス腱を痛めた。

一時は引退を噂されたが、今年2月21日、バーミンガム室内大会で2マイルを8分4秒29の世界新記録を樹立。続く、2月28日、カールスルーヘ室内大会3000mを7分28秒29で優勝。強いトラックの「皇帝」が復活した。特に、強力なライヴァルの出場選手は見当たらないが、欧州選手権5000m優勝者、今季3000m欧州新記録7分32秒98を記録したアルベルト・ガルシア(32歳、スペイン)が絶好調。2人とも予選を軽く通過。

ゲブルセラシェは笑顔で「なんどもここで走った経験があるのでホームみたいなもの。観衆が温か迎えてくれる。決勝のライヴァルはアルベルトだろう」と、レース前から読んでいた。決勝レースは、スタートからゲブルセラシェを中心に展開。モロッコ選手が前半ペースを作ったが、誰も無謀な積極的な飛び出しは控えた。残り5周になって急激なペースアップ、最初に飛び出したのはガルシア。すぐにゲブルセラシェが追いつき、残り2周でゲブルセラシェが突然スパート。「あそこで少し早いスパートしたのは、まだ誰も予期していなかったし、大きな集団から離れないと危険だから。意外性のスパートは効果的だ」2位のガルシアと3m差。

必死で追走するガルシアだが、その差は次第に広まる。ガルシアは「最近好調の原因は、ここ3年間故障が起きないので練習が継続できたこと。アイドルのハイレと一緒にあそこまで走れ、2位で最高に満足です。ハイレがトップコンディションの時、かれを破ることは到底不可能なこと!あれ以上に速くは走れない。かれとあそこまで争ったことはファンタスティックだ!世界選手権は、アフリカ選手と5000mで戦う」 最後に、ゲブルセラシェは「五輪マラソンで優勝する夢は消えることはないが、いつになるかわからない。

アテネは熱いのでマラソンはキツイ!パリの世界選手権、アテネ五輪は10,000mで優勝を狙うだろう」と結んだ。 18年間のキャリアに"Goodbye"ジャクソン 英国陸上競技史上、最も偉大なアスリートの一人コリン・ジャクソン(36歳)引退レースは、今大会の

ハイライトのひとつだった。86年から世界のトップハードラーとして君臨、18年間の長期に渡り大活躍。110mh、12秒91、60mh、7秒30の世界記録保持者。主要国際大会、世界選手権2度、欧州選手権90年から連続4回、室内世界選手権など25回優勝経験を持つ。しかし、不思議とソウル五輪2位以外、故障などで五輪と縁がなかった。大会前から、コリン・ジャクソン引退レースは大々的に報道され、かれの偉大な業績を称えル報道が目に付いた。室内世界選手権を引退レースに選んだことを、ジャクソンは最後のメッセージをこう伝えた。

「以前から引退するタイミングを考えていた。まだ、十分に走れるときに引退するのが理想的と考えていたからだ。シドニー五輪後、ここで開催される室内世界選手権大会を選んだ。プレッシャーがきつかったが、今までどおりの練習を積んでレースに備えたが、あれが精一杯だった(笑顔)。悔いはない。過去を振り返り最も印象が強いレースは、87年アテネで開催されたジュニア世界選手権で最初の国際タイトルを獲得したとき。そのきっかけが今日に通じています。逆の場合、五輪優勝できなかったは残念ですが、その原因は故障だった。考え方によっては、五輪で優勝できなかったので、長くモチベーションを持ち続けることができたとも言えます。

若くて五輪優勝を果たしていれば、もっと早く引退していたかもしれない。競技を長く続けられた秘訣は、走ることが大好きだったからでしょう。本当はただ走るだけで、試合がなければもっと楽しめるでしょうが・・。ぼくのガ―ダー・マルコムコーチは、基本的に長期的な視野に立って指導してくれました。マルコムが選手の業績を計る物差しは、メダル獲得や記録であって、賞金獲得がいくらかではないことです。近年の陸上界は、金が主流になって、競技そのものが二の次になっている傾向がますます強くなっている。また、ドーピングも大きな問題。競技者のモラルをもう一度問い直す必要性があるでしょう。引退後は、すでに書き始めたフィクションのシナリオ、スポーツ栄養学の本やモチベーションを高めるゼミ、BBC放送のスポーツ番組のコンサルタントなど、毎日忙しくなるでしょう」満員の観衆はスタンディングオベーションを持って、コリン・ジャクソンファイナルランを称えた。

涙の優勝,女子三段跳びハンセン

フランソワーズ・ムバンゴ(26歳、カメルーン)は、いきなり14m88を飛びプレッシャーをかけた。地元期待の星、アシア・ハンセン(31歳)も1回目の跳躍で14m77を飛んで答える。ハンセンはアメリカ生まれ。生後3ヶ月でイギリス、ガーナ人カップルの養子となり、一時は養父の母国ガーナに6年住んだこともある。彼女のポスターが町じゅうに貼られ、地元優勝の期待がいかに大きいか想像できる。最初の跳躍で、勝負はこの二人に早くも絞られた。ハンセンは2回目の跳躍のため助走路に向い、あたりをキョロキョロ探し回り助走が始まらない。この状況をハンセンは「助走のマークが意図的に外されていた。マークがどこで見つかり、誰が外したかわかっている」と、説明した。

すっかりペースを乱され、競技を中断してサイド計測し直して競技開始。この間、少なくとも10分競技中断。このため助走が合わずファオル。一方、ムバンゴはその後の跳躍は全く伸びを見せない。ハンセンは14m56,14m62とコンスタントな記録を連発、5回目に15m01、大台に乗せ、ほぼこの時点で優勝確実となった。ハンセンはホップ足のアキレス健とかかと部分に痛み止めの注射を打って出場。「予選1発で通過しなかったら、多分、痛みが酷く決勝出場は断念したでしょう。決勝は5本の痛み止め注射を打ちました。わたしが優勝できないだろうと書かれたので、意地でも大きなジャンプで勝ちたかった。勝てて本当に良かった!!」涙!涙のウイニングラン。

本命なき男子200m、ディヴォニッシュ優勝

アメリカ選手が二流選手を送ってきた。ほかの参加者も、名前が知られた選手が見えない。準決勝を終えた時点で、地元期待のマーロン・ディヴォニッシュ(26歳、英国)が20秒63でベストタイムを記録。続くジョセフ・バタングドン(24歳、カメルーン)が20秒65、ドミニック・ディメリテ(25歳、バハマ)が20秒67。この3人がそのまま決勝戦の結果、上位を占めた。ディヴォニッシュは「地元の声援を受けて勝ったのは最高の気分だ。ワールドカップ後、今季の室内レースに出場しないことを決めた。2ヶ月前、とても優勝することなど考えもできなかったが、フロリダで20秒51を記録したので出場できた。昨年はブレークの年。大英連邦競技大会200mで2位になった自信は大きい。この調子を維持して屋外シーズンに持ってゆきたい」と、2世スプリンター父親はバルバドスのスプリンター)の屋外に期待でしよう。

ブロック初の室内世界選手権優勝

スタートから飛び出し、今季世界最高記録7秒04でブロック圧勝。優勝した瞬間、珍しくも大はしゃぎでウイニングランを始めた。「勝った気持ちは、言葉に表わせない。トロント大会で3位になっただけで、室内世界タイトルを獲得したのは初めて。優勝タイムは、7秒03〜05だろうと、おおむね予想されていたので驚きません。わたしは室内競技のスペシャリストではないので、屋外シーズンに向けてかなり期待できそうです。

今年の目標は100mで自己記録更新です。」 オッティ、不得手な60mで4位に食い込む健闘 どちらかと言えば、大柄なマリン・オッティ(43歳、スロバキア)は、60mの短い距離は苦手なはず。しかし、今年の室内競技会から本格的に第1戦にカムバック。女子参加選手290人最年長はオッティの5月に43歳。ちなみに、最年少はマルタから参加した16歳の女子選手のセリネ・ペース。

一次予選を7秒21で1位通過。準決勝では7秒17のスロべニア新記録で1位通過。いまだ健在を強くアピールした。「メダル獲得が目標だったが、スタートが出遅れた。スロベニアは競技に集中できる環境が素晴らしい。今季の室内レースの結果は、冬季練習の成果がうかがえる。屋外レースでどこまで走れるか楽しみです」

女子200m、コリンズが圧勝

ミッシェル・コリンズ(32歳、米国)は、室内レースでは有利な6コース。フランス女子短距離のエース、200mのスペシャリストのムリエール・ウティス(23歳)は5コース。コリンズは「大会2週間前、両足のハムストリングの故障で練習もできず。治療に専念していたが、レースが始まると、右足に痛みを感じ、ゴールに入ると今度は左足が痛かった。最近、400m専門のスピードをつけるために200mの練習を多く取り入れている。以前は100,200mランナーだったのでスピードは持っている。今季は200と400mを走ることになるだろう。特に、200mはコンスタントに22秒台で走る自信はある。」と説明、屋外シーズンに期待できそうだ。一方、2位になったウティスはこう言う。「準決勝で22秒49の室内フランス新記録を出したが、この記録では勝てない。相手が強すぎる。でも、消して勝てない相手ではない。2日2レースでスタミナ切れ。屋外シーズンに向けて猛練習を積んで、パリでよい成績を残したい。目標はメダル獲得!」

女子800m、ムトラがライヴァルに快勝

今大会で女子800mエントリーは、多分、世界最強選手全員が集結しただひとつの種目だろう。5回目の優勝を狙うマリア・ムトラ(30歳、モザンビック)、室内世界記録保持者、金髪をなびかせて走るヨランダ・チェプラック(28歳、スロベニヤ)昨年の夏ガンの手術を克服してカムバックしたステェファニ・グラフ(29歳、オーストリア)、のライヴァルトリオが勢ぞろいした。

グラフは万年2位のため「シルバーグラフ」と呼ばれる。グラフはガン宣告空リスクの高い手術を振り返って「手術後(左の尻)足を動かすこともできず、3ヶ月痛みが続いたので、もう2度と走れることはできないと思った。手術後、再びレースに出場でき、大変な喜びですが、『スポーツは人生で最も重要なことではない』と考えるようになりました。今までより、レースにクールに対処することができ、不必要にエネルギーを使わなくなりました」勝負は冷徹無常だ。ムトラが完璧なレース読みで圧勝した。

ムトラはフェンの積極性を称えた後「フェン(5位)が積極的にレースを引っ張ったので、早い展開だった。このような強豪が集結したレースでは、レース展開を的確な判断が必要。150m手前で先頭に出た作戦が成功したと思う。」と勝因を語る。 また、グラフが脅威のカムバックを果たした。2位でゴールしたグラフは、信じられないような表情だった。

「医者に手術後は走れないかもしれない。コーチは準決勝進出できたら立派、もし決勝に残れたらミラクルだといわれたのですから、4週間の練習で2位になるなんて!!ファンタスティック!このまま行けるなら、近い将来世界記録を破れるかもしれない」

女子1500m、40歳のベテラン、ジェイコブ2度目の優勝 レジナ・ジェイコブ(米国)は、1500mでアメリカ選手権11回優勝、97、99年世界選手権2位の実力者だ。今年2月、室内世界新記録3分59秒96を樹立した最年長記録も更新した。 その余勢を駆って、先行したナタリヤ・ゴレォロワ(29歳、ロシア)が800を2分8秒80で通過したが、1000m通過するとジェイコブが先頭に立ち、1200mを3分15秒22で通過そのまま無難なくゴール。

2位には、猛烈に追い上げたケリー・ホルムズ(32歳、英国)が、ゴール手前でヤカテリ―ナ・ロゼンベルグを捕らえて2位になる。ジェイコブは今季ブレークし要因をこう説明した。「今日のレースは勝つことが目標だった。ここ数年ぜんそくで満足の練習ができなかったが、全快したので世界記録に結びついた。この調子を屋外レースに生かして、1500の4分00秒35の自己記録をまず更新して、パリでメダル獲得を狙います。多分、アテネ五輪まで競技を続けるでしょうが、その後のことは未定です」

女子棒高跳び,フェオファノワ世界新記録で優勝、

ドラギラ自滅で記録なし 2年前、リスボンの室内世界選手権で、世界新記録を樹立したステェーシ・ドラギラ(31歳、米国)は、予選こそ難なく通過したが、決勝で4m51を飛んで不本意な結果4位だった。今回もドラギラは、大会前に4m79の世界新記録樹立、フェオファノワの記録を破ったばかりだった。しかし、ドラギラは予選で4m10、25をパスして、バーが4m30に上がってから跳躍を開始した。

ところが、タイミングが全く合わず、この高さを3回とも身体が上がらず自滅して姿を消した。ドラギラは予戦敗退を聞かれて「最悪の日!話したくもない!こんなことは早く忘れたい」ケンもホロホロ。一方、スヴェトラーナ・フェオファノワ(22歳、ロシア)は決勝でも快調そのまま。4m35からスタート、45を一発でクリアー。4m55を少しトラぶったが2回目で無難にクリアー。続き、バーは4m60、65、70、75と上昇されたが、総て一発の跳躍で完璧にクリアーした。

「ここでは2月21日、4m77を飛んだラッキーの室内。決勝は、非常にイェレナ・イシバイェワ(20歳、ロシア)が良い跳躍をしていたので、アテネ室内で彼女に破れたので、今回も負けるような気がしました。しかし、優勝が決まってから、4m70、75を軽くクリアーできた時点で、世界新記録が出るような気がしました。

4m80の2回目の跳躍で足がバーに触ったが落ちなかった。やはりここは運が良い!(5mを越える可能性を聞かれて)いつ越えられるか予想はできないが、確かなことは、やがては5mを越えるのは時間の問題でしょう」世界記録誕生に、ブブカがフィールド内に走りこんで、世界記録を祝福した。ジュニア世界記録保持者のイシバイェワは、「メダル獲得が目標でしたが、2位になるとは思っていなかったので大変に嬉しい!アテネでスヴェトラーナを運良く破りましたが、まだまだ力が足りません」と結んだ。

女子5種、クリュフト時代の到来か? カロリーナ・クリュフト(20歳、スエーデン)は、シュッパナの60mhで首位に立つと、そのまま一度もリードを譲らぬ圧倒的な強さで大会記録を更新。

スエーデン史上4個目の優勝をもたらした。昨年ジュニア世界新記録を2度更新、ジュニア世界選手権、欧州選手権を獲得、スエーデンの2002年スポーツ最優秀選手賞を受賞した。クリュフトは「わたしはまだ若いので試合経験が少なく、ナイーブ。試合前、出場者が誰か、強敵は誰かチェックしたことがない。今大会ではナタリヤ・サザノビッチ(29歳、ベラルシア)を知っていたが、競技が始まれば自分のペースを守って最善を尽くすことしか念頭にない。調子が良いのは判っていた。今回は室内世界選手権優勝が目的。

60mh、砲丸投げ、走り幅跳び、800mの4種目で自己記録を更新、念願の世界選手権で優勝した!!最後の800mスタート前、顔には出さなかったがナーバスになっていました。最後の書目でも自己記録更新を狙ったが、最初の200mを31秒で入ったのが早すぎました(笑い)世界記録(4991)を破れなかったが、失望はしていない。まだ、そのチャンスはいくらでもある。観衆の素晴らしい声援が非常に励まされた。それに答え今日のように、気持ちが、身体がうまく乗ってくれれば怖いものなしです。パリ世界選手権でメダル獲得が今年の目標です」

メダル獲得ダントツ、仲良く60m、200mを両国で分けた。

今回アメリカのメダル獲得総数が17個、内訳は金メダル10個、銀3、銅7個となっている

。ロシアはメダル総数12個、金5、銀4、銅3、スエーデンが過去史上3個の金メダル獲得から、一挙に今回だけで4個獲得したのは特筆されよう。

アメリカの活躍は、男子選手が800m、走り幅跳び、7種目など、欧州選手の得意とする種目で優勝したことが大きい。中でも、キプケターを最後のホームストレッチで競り勝った800m、1cmの差で逆転勝ちした走り幅跳び、久々に混成競技のタイトルがアメリカ選手が獲得したことなどが躍進の原因だろう。

朝原予選落ち 日本からはわずか3選手が出場。男子60mの朝原宣治(大阪ガス)は、レース前に会った。「生まれてくる子供のためにもがんばります」と言っていたが、今季初めての室内レース だ。

のアメリカ 短距離、60,200mは地元英国とアメリカの争いに焦点たが

昨年、意欲的に欧州室内レースを転戦しながら冬季練習の成果を確かめていた。が、今年は一転、室内レース出場するたびに練習中断を余儀なくするので、室内レース出場を断念した。

特に、室内レース経験はなくとも、冬季練習成果を確認するためにも、1度はこのようなレース経験は望むところだった。朝原は予選6組2コース、持ちタイムからは断然朝原が有利と見られたがリマ(ブラジル)、コリオ(イタリア)らがスタートから飛び出し6秒66のタイ記録で1、2位を分け、3位はアングオノ−モケ(コンゴ)6秒67。

朝原は後半フォームを崩してスピードに伸びが見られず6秒71。朝原は「全体に切れがない。どたばたしている感じです。春先に練習効果を見ておこうと思ったし、60mの練習をしてこないが、一応世界大会にあわせ決勝進出が目標でした」この結果、朝原と同タイムを記録したのは、ほかにも2選手がいたが、不運にも1000分の2の僅差で予選落ちが決定した。

杉森女子800m準決勝進出 女子800mに出場した杉森美保(京セラ)は善戦した。レース前から熱い女の激戦が予想された大会のハイライトのひとつ。杉森は2月22日、横浜室内で2分00秒78の日本新記録を樹立したばかり。"夢の1分台"を期待された。スタートから先頭に立ち、前半400mを59秒02で入る積極的な走りで予選を2分03秒55で3位。準決勝に進出した。

「ここまでくると後方から前について、レース展開のようすを見てから・・・なんて余裕はありません。思い切ったレース展開で悔いが残らないように走りました。うまく準決勝進出を拾われましたから、当初の希望が果たせました。(笑顔)」準決勝レースは大会2日目。予選と同じ優勝候補のステファニー・グラフ(オーストリア)とまた同じ組。「最初の100コーナーに入る時、失敗しましたね。

前の選手と瞬間的に詰まり後方から2番目。リズムを壊し、あれから追い上げようとして無駄なエネルギーを使ってしまいました。調子は悪くはないのですが、このレヴェルで毎日、全力でレースをする体力、気力はありませんね。急に決まった室内世界選手権でしたので、気持ちの切り替えが十分ではなかった。

良い経験をしました」期待された2分の"壁"を突破することはできなかったが、「昨年と比較して、駅伝練習に参加、全日本実業団駅伝に出場したり、スピードが落ちることを心配したのですが、おかげで残り200mでスピードをある程度維持する力がでてきたと思います。

でも、1分台突入のためにはやらなければならないことがたくさんありますね(笑顔)」 記録なしで予選落ち 女子走り高跳びのハニカット(旧姓大田)陽子(ミキハウス)は、予選が1m87からスタート。身体は高さを上がっていたようだが・・・「今季最初の試合で体力的な問題はなかったが、試合から遠ざかっていたので感覚的に戸惑った。要するに、技術的な鋭さに欠けていたように思います」結局、この高さを一度もクリアーできず記録なしで予選敗退した。

(↑講談社・陸上競技社・月刊陸上競技誌2003年5月号掲載)
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