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【誰も予想できなかったポーラ・ラドクリフの一人旅】 |
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マラソンは走るのも難しいが、予測することもまた難しい。ロンドン・マラソンの過去の優勝者デラーツ・ツル、ジョイス・チェプチュンバらの過去の優勝者が、口を揃えて初マラソンの難しさを説く。関係者はポーラ・ラドクリフ独特のランニングスタイル、肩を張り、首を上下に振りながら、膝がガクガクするような足の動き爪先で着地する。あの走りでは、フル・マラソンは無理だろうと予測した人もいる。しかしながら、今年世界クロカン選手権を2連勝、絶好調だったラドクリフは、その勢いを駆って、おおよそいろんなデーター、情報を見事までに裏切って9マイル手前からゴールまで一度も振り返ることなく完璧に独走優勝した。
渋井の持つ初マラソン世界最高記録を4分15秒短縮、イングリッド・クリスチャンセンの持つ大会記録、欧州、大英連邦等、数々の新記録を樹立、2時間18分56秒、史上2番目の記録で圧勝した。なお、土佐は27km付近からラドクリフを追い、第2グループ牽引車となって積極的なレース展開をしたが、最後に力尽きて4位。2時間22分45秒、自己記録を更新した。
―初マラソンで楽勝した感想は? ラドクリフ―It was a fantastic day ! Iwon the marathon and won it my way ! アルバカーキーで行われた8週間の合宿は全て順調にプログラムを消化しました。やれなかったことはなにもありません。調子は非常に良く、勝つのが目標でした。自分の目標タイムは、特に決めていなかったのですが、もしペースが2時間20分前後で行くならそれにあわせて走る予定でした。しかし、なんと言っても初めてのレースで自分のレースで勝ったことでしょう。そして、マラソンの経験を得たことです。それが最も重要なことです。 ―なぜ、早い地点で前に出たのか? ラドクリフ―7マイル辺まであのペース(1マイル5分35秒〜5分38秒)で様子を見ていたのですが、7マイルを過ぎてもペースが上がりません。もう少し早いペース(5分30秒)で、リックスして走れば、どうしてかわからないのですが練習でもそうなんです。努力しないで気持ち良くリズミカルに走れます。レース前の作戦は17か18マイルまで先頭集団と一緒に走り、その後様子を見てスパートするというものでしたが、9マイル少し過ぎてからペースアップしたのですが、スパートしたものではありません。もし、飛び出すのをコーチ、アレックス・スタントンが見ていたら心臓発作を起こしたかもしれません! ―独走はきつかったでしょう。 ラドクリフ―フロントランニングの方が楽です。独走は慣れているので問題はありません。むしろ大好きですね。集団の中で走るより、一人で自分の身体に聞きながら、どのぐらいで行けるのか、調子をテストするのです。前に誰もいない、一人の練習を数千の人々が応援しているような感じです。あたかも、わたしとペースメーカの2人ですが、いつも夫のガリーと練習が一緒なのでいつもと同じような感じでしたね。
―どの辺で勝てると思いましたか? ラドクリフ―途中でおなかが痛くなったり、トイレに行かなければならないのか心配したが、運良く、いつのまにかそれも消えてしまいました。夫が前を走る時計車から、『21分ペース!』とか『サブ20!』とか大声で伝えてくれました。が、残り4マイル、22マイル付近で観衆が2位との差は2分あることを知らせてくれたので、なんらかの事故が起きない限り残りの距離で追いつかれることもないと思いましたね。あれこれ考えているうちに、レースが終わりました。 ―レース前の心配は? ラドクリフ―マラソンという長い距離のレースが初めてなので、少しナーヴァスになったが、それは経験がないところからくるものです。調子がよかったので走る自信はあったのですが、それよりも恐れたことは、シューズ、ソックスが合わなくて靴擦れが起きてレースを中断しなければならないような事故で、それまでの努力がつまらないミスでをフイしてしまうことを最も恐れました。 ―膝の心配はなかったのか? ラドクリフ―1月からニューメキシコで8週間合宿。アイルランドで開催された世界クロカンに出場してからアイルランドに滞在して調整しました。その時、リメリック市の世界的著名なフィジカルセラピスト、ゲラルド・ハルトマン(新しい予約は18ヵ月後、と言われるほど多忙)の治療、アドヴァイスは『右ひざは完璧。レース中に膝が悪化することはない。脚が悪ければ話し掛けるだろう』と、保証つきでした。レース中、18マイル付近で脚が重くなったのは右ではなく、左足でした。 ―もし、スタートから早いペースで走ったら、もっと記録が出ていたと思いますか? ラドクリフ―それは判りませんが、出なかったかもしれません。もし、スタートからハイペースで飛ばしたら、最後が潰れたかもしれませんし、記録がそれほど伸びないかもしれません。マラソンの走りは身体に聞かなければ走れない競技ですから、前半早くても、後半はそれに比例して結果を期待することはできません。それが距離の長いマラソンの不可思議、難しいポイントだと思います。あれ以上の早いペース(前半、1時間11分5秒、後半、1時間7分51秒)でやるには、練習から始め、練習を通してメンタルの準備がなければ 無謀な試みでしょう。
ラドクリフ―わたしがマラソンへの転向への条件は、マラソンを走るということが自然に頭の中に入ってくる時だと思っていました。要するに、フル・マラソンは10km、ハーフと違って距離が長いので、メンタルの準備が完了していなければ成功しないだろうと思っていました。その時、最初のマラソンは地元のロンドンで走る計画でした。 ―スタートラインに立ったときの心境は?? ラドクリフ―遂にロンドン・マラソンのスタートラインに立てた事実に驚きましたね。4ヶ月前は、右ひざの痛みで一時は世界クロカン選手権、ロンドン・マラソン出場さえ危ぶまれたのですから、スタートラインに立てるだけでも不思議な感じでした。 ―ゴールの瞬間、どんな心境でしたか? ラドクリフ―優勝の感激は特別なものです。昨年のオステンド世界クロカン選手権で、長い時間を掛けてやっと初優勝した時、感激はゴールした瞬間より後から嬉しさが出てきました。今回はゴールした瞬間、感激して涙が一人で沸いてきました。ゴールの瞬間は、わたしの脳裏に焼き付いて生涯消えることはないでしょう。 ―男女混合レースと単独レースはどんな違いがありますか? ラドクリフ―ペースメーカーが付いているといないとの差ぐらいあるでしょう。特に、距離が長くなればなるほど単独レースと、適当なスピードで前を走ってくれるランナーがいれば楽です。例えば、今日のレースで5〜6マイル残して、脚が重くなってきた時など、伴走者がいると助かりますね。 ―あなたは血液ドーピングテスト提唱者の一人ですね。今年のロンドン・マラソンはエリート選手全員血液ドーピング検査を実施しました。クリーンなレースで勝ったことに満足しているか? ラドクリフ―そうです。今まで薬物ドーピング反対運動をしてきました。薬物使用選手が絶えない現在、血液ドーピング検査はぜひ実行して欲しいと思います。そうでなければ純粋なスポーツ競技が根本的から崩壊すると思います。この大会から世界に向かって、大きなマラソンレースにドーピング検査を義務付けるルールを施行するきっかけになれば幸いです。少しづつですが、ドーピング検査が広まってゆくのは大変に良いことですが、もっともっと広範囲に広まることを希望します。 ―あなたは高地で特別な練習をしますか? ラドクリフ―特別かどうか知りませんが、高地2000m前後で1週間の平均が約130マイルぐらいでしょう。最も長い距離を走るのは、2時間、2時間15分走を8週間で4回ほど行いました。練習は連続7日間、休みは1日のパターンです。マラソン練習ですから、距離を長く走る練習が多くなり持久力をつけますが、基本的な練習は今までとさほど変わっていません。
小出監督談 「ラドクリフが凄かったね。あんな記録を出すとは思っていなかったが、あれで女子マラソンも、一挙に高速化されてきたね。そしてラドクリフの最後の1マイルは5分6秒まで上がっている。要するにかなり早いペースで入っても、後半のスピード、持久力が勝負になるでしょう。ラドクリフは日本最強のライヴァルなるかもしれないが、その対策として、Qチャンは来年の世界選手権までに後半にスピードアップできる改造をしなければならない。これからは16分ぐらいを設定した練習になるでしょうね」 |
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