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(若干20歳のベケレ、病み上がりで史上初の2種目連勝) |
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第31回世界クロカン選手権大会が、ローザンヌ郊外のアヴェンシェにあるスイスナショナル乗馬クラブ、競馬の施設で開催された。連日予想に反して好天に恵まれた。この時期、轟音を轟かせスイス空軍戦闘機の派手なアクロバットショーで開幕。繰り返し上空を通過するジェット機の編隊は、一様に戦争を想起させただろう。 日本選手は、残念ながらアメリカ連合軍が対イラク開戦を勃発させたため、大事を取って陸連は参加中止を決めた。が、その決定発表前、すでにサンモリッツで合宿をしていたダイハツ選手2人が女子ショート、ロングに参加しただけ。 このため、90年大会からジュニア女子団体連続メダル獲得が残念ながら中断された。今大会の戦争のため参加中止を決定した国は、日本、イスラエル、カタールの3カ国だけ。選手800人が80カ国から参加した。 今年も圧倒的にエチオピア、ケニヤ選手の独断場に終始した。特筆されるのは、ケネニサ・ベケレ(エチオピア、20歳)が、圧倒的な強さで男子ロング、ショートの2種目に連続優勝。大会の注目を一人占めにした。エチオピアの4種目の個人優勝、ケニヤ選手が2種目優勝。ケニヤ男子団体連続優勝は、今年も86年以来18年連続優勝して面目を保った。各種目別に大会レポートをまとめてみた。 ティルネシュ・ディババ、ケニヤ勢を直線で振り切る 3月29日、大会初日 ジュニア女子レース距離6215m(直線420m+1周680m+3x1周1750m、参加選手総104人) 女子ジュニアレースは、大会最初の種目。
2位は1秒差でチェプチュンバ、3位ゲレタ・ブルカ(エチオピア)、続く、4、6位にもエチオピア選手が入賞、団体優勝も獲得した。 病み上がり、寝不足のベケレ、ロングスパートで連勝 男子ショートコース、距離4030m(直線420m+2x1周1805m) ケネニサ・ベケレ(エチオピア、20歳)は、国内クロカン選考レース4日前、食中毒(一説にはチフスと言われるが・・・)を起こして欠場した。 世界選手大会も出場を危ぶまれたが、大会数日前に調子を戻したので、ナショナルコーチのウォルデメスケル・コストレ博士がチームに加えた。 数年前、アディスアベバ国立競技場で、コストレ博士がベケレを指して「第二のハイレになる素質を持っている」と、高く評価していたことを思い出す。その時は、チリで開催されたジュニア世界選手権大会5000m(13分45秒43)で2位。まだ、全く目立たない存在だった。2001年世界クロカンジュニアで優勝、シニアショートで2位に入る健闘して周囲を驚かした。 昨年、ダブリンで開催された世界選手権大会では、ジュニアの年齢ながら史上初のロング、ショートレースの2種目で優勝して、世界を"アッ"と言わせた怪物少年だ。しかし、昨年、屋外シーズンを期待されながら、ミラノGP出場前にアキレス腱、膝を痛め、その後のレースを総て棒に振ってしまった。ベケレは「足は完璧に回復した。 今季のクロカンレースでも、異常はないし、レースごとに自信も回復してきた」と言う。再びベケレの元気な走りができるようになったのは、昨年の11月7日オエイラ、ポルトガルのレースで優勝して以来、クロカン14連勝、01年12月2日、ハイレ・ゲブレセラシエにフランスで開催されたクロカンで負けて2位 になって以来。 クロカン王国を自他共に誇るケニヤ勢の巻き返しが予測された。スタートからケニヤ選手が横一線に並び、最初の1kmを2分35秒の早い展開でエチオピア勢を引っ張った。
記者会見でこの話を隣で聞いたケニヤ選手は、ダブルショックで団体戦優勝も浮かぬ表情だった。 キダネ優勝、エチオピア個人3連勝で初日を終える 女子ロングコース、距離7920m(直線420m+1周680m+4周1705m) 今年のこのレースは、ロンドンマラソンを控えたポーラ・ラドクリフ(英国)、出産予定が近いゲテ・ワミ(エチオピア)、昨年4位になった山中(ダイハツ)は故障など、スター選手不在の印象は免れない。 しかし、ウエルクネシ・キダネ(21歳、エチオピア、シドニー五輪10000m18位、5000m14分43秒53)は、スタートから一度も前に出ることなく、残り300m地点でスパート、25分53秒で優勝。世代交代の兆しかもしれない。 キダネは99年ジュニアで優勝した逸材、順調に成長の後は見える。エチオピア若手女子期待の選手の一人だ。レース展開は、ディナ・ドロシイ(30歳、米国)がスタートから積極的に引っ張った。次々と振るい落とされて行く。ドロシイの背後にピタリ吸い付くようにして離れないキダネの二人に優勝争いは絞られた。昨年に続き2位のドロシイは、「連続して2位になったが、実力の差」と、笑顔で答えた。 続けて、世界クロカンはロンドンマラソンへの「前哨戦」を仄めかした。また、世情をドロシイに突っ込んだ記者に「われわれ選手は、アメリカが今どのような状況におかれているか十分知っている。 世界中から集まってきた選手が、なにごともなく平和にスポーツで争っている。一日も早く戦争を終結欲しいと思います」と、止めなく厳しい表情で返答した。陸連が世界クロカンに選手を発表する以前から、スイスのサンモリッツで高地合宿していたダイハツ女子選手が単独で出場した。このレースに大越一恵が出場、27分50秒で24位。大越はレース後こう言った。 「スタートが大切なので、全力で先頭についた。コースが小さな起伏が多過ぎてからだのリズムが取り難く、足元がすくわれた感じでした」 総てのレース終了後、エチオピア選手全員で踊りながら勝利を祝福した。 3月30日、世界クロカン選手権大会二日目 ケニヤ初の金メダル、面目一新 男子ジュニアレース、距離7920m(直線420m+1周680m+4周x1705m) このレースの下馬評は、昨年3位になってボニファース・キプロップ(17歳、ウガンダ)だ。 今年アディスアベバで開催された国際クロカンのシニア部に招待されて出場、強豪エチオピア選手と対決して7位の好成績を上げた逸材。しかし、ケニヤ選手は、最初の1kmを2分39秒のシニア並みのハイペースで飛ばして、後続を断つ作戦。ケニヤ勢のキプチョゲ、キプロップ、チョゲ、ブシェンディチ、エチオピア勢はアセファ、ディンク、アブシェらが先頭集団。 このグループが残り500mのスプリントで一斉に飛び出す。優勝したキプチョゲは「プレッシャーがあったが、絶対に勝ちたかった」と、重圧から開放されてホッとした表情だった。タイムは22分47秒、2位のキプロップは2秒差、3位のブシェンディッチラ、6位まで僅差の勝負だった。 キダネのバブル優勝を阻止したケニヤのプライド 女子ショートコース、距離4030m(直線420m+2周x1805m) エディス・マサイ(35歳、ケニヤ)刑務所勤務。99年離婚してから、子供の生活を良くするため走り出したという。昨年に続き2連勝。ロングコースで優勝したキダネと最後のスパートで勝敗を決める激戦。10代で世界に飛び出すアフリカ選手は珍しくないが、マサイは31歳になってから本格的に走り出したことは、男性社会のケニヤでは異例なこと。離婚が契機なことは興味深い。 優勝金額5万ドル、子供にたくさんのお土産を抱えて帰国したことだろう、と思うと微笑ましい。ダイハツの田鍋久美が出場、14分22秒で76位。「ポジション争いで、スタート直後に転倒、左脛に切り傷。筋力不足です」 ベケレの独断場、ダブル2連勝の偉業
数歩離れて、イヴティ一人が前を必死に追う。ベケレは時々、心配そうにゲブレマリアムをチラッと見る。ケニヤ選手の出方を暫く見て、追ってこないと判断したのだろう。凄いことに、残り1週でベケレは独走態勢。 一段とスピードアップしてケニヤ勢を完全に突き離した。ベケレは「われわれはケニヤの作戦に対処するため、彼等が速く走れば、それ以上にペースアップできる能力があった。負ける気がしなかったが、勝敗の行方は神様が決めるものです」と、分析する。 シドニー五輪1000m4位のイヴティは「われわれ最高のメンバーで、ベケレ潰しに掛かったが、かれの力は予想を遥かに上回っていた。見たとおり完敗です」と完璧に敗北を認めた。 ベケレの強さをエージェントのヨス・ヘルマンスに聞く「人はハイレ・ゲブレセラシエとベケレを比較するだろうが、同じ長距離選手でもタイプも性格も大きく違う。ハイレは開放的な性格だがベケレは内向的でコミニケーションが難しい。ハイレは中距離走者のように爪先で走るが、ベケレは足の着地を全体でする。身体の作りも、華奢なハイレと頑強なベケレと体型も違う。そのため、ハイレがトラックに強いが、世界クロカン選手権では勝てない。 軟弱で凸凹のコースは、彼の走り方では力が発揮できないからです。ベケレの脚力は強く、クロカンに適した走りができる。この差が結果に現れている。ベケレの才能は疑いのないものだが、トラックで走ることはまた違ってくるでしょう。ベケレはまだ若い。 習うことがいっぱいある。6月の始めヘンゲロGPでハイレが10000mで世界記録に挑戦する予定があります。ベケレはハイレと一緒に走ることを希望しています」一方、ベケレはハイレと比較されて「ハイレの域に到達するには、まだまだ長い時間が必要です」と、謙虚な態度を崩さない。今季の屋外シーズン長距離の見所のひとつは、ハイレとベケレの争い、クロカンに完全敗北したケニヤ勢の巻き返しだろう。 |
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