【世界のマラソン選手製造コーチ、ガブリエラ・ロザの論理】
一人の世界的マラソン選手を育てるには、素質発掘から始めても並大抵のことではないだろう。昨年6分台で走った選手は、ピントの2時間06分36秒、藤田の2時間06分51秒だけ。最近でこそ6分台も珍しくなくなったが、史上6分以下で走った選手は、5分台ただ一人の男、ハヌーチの2時間05分42秒を含む14名だ。日本選手も世界歴代50傑に4人入っている。しかし、史上ベスト50傑の記録の中に、「私が育てた選手の記録が半分ぐらい」と、豪語する人がいる。白髪、白い髭のイタリア人ガブリエラ・ロザ博士だ。ミラノに近いブレシアという町に本拠を置くRoza a Associati社の創業者。本業は生理学スペシャリストの医者、1970年からスポーツ医学に関わり、2人の医者の息子マルコ、フレデリコらも一緒。


ロンドンマラソンレース後、初マラソンを祝して、
ロザ、タガー ト、彼の妻のモニカ
「長距離、マラソンは私のパッションだ」と言うように、元トラック選手、マラソン転向して大成功を収めたモーゼズ・タヌイをコーチしてから深くケニヤ選手に関わってきた。この10年間、「デイスカヴァリー・ケニヤ」プロジェクトを発足、ケニヤの首都ナイロビから北西に約200km、ケニヤ長距離選手の宝庫エルドレドを中心に展開、成功を収めた。今春の成果は、パリで1、3位、ボストンで3位、ロンドンで2位、ロッテルダムで上位3人、そのうち一人は6分台だった。ロザはそれでも、全勝できず不服そう。選手発掘は、ケニヤの少年をトレッドミルで走らせ、多角度から身体能力データ―からテスト、厳しいテストに合格した若者を合宿所に入れ、3グループに分けて猛練習を課せる。総勢120以上の選手の「マラソン選手製造」合宿をまかない、食事、小遣いを与えている。「才能が最も重要だ。駄馬を叩いてもサラブレットには化けない」妥協を許さない才能優先理論の持ち主だ。タヌイ、キプロノ、キプロプ、キプラガト、コスゲ、チェベットらの、6分台選手が目白押し。今年のロンドンマラソンで、長距離史上最優秀選手ポール・タガートが初レースに挑戦、軽く8分台で2位になった。今秋ロザは、「天候、調子が良ければベルリンかシカゴで記録を狙う。ポールの潜在的な力は4分台で走れるだろう」といとも簡単に言う。イタリア版「馬軍団」的発想だ!

ロザは近代マラソンを「サイエンス」と言う。ぼくが10年前、プラハに立ち寄った折、かつて「人間機関車」の異名を取った故エミール・ザトペック宅を訪れた。彼の奥さん、52年五輪で槍投げで優勝したダナ・ザトプコーワ。運良く、テニスラケットを抱えて帰宅。2人に暖かなもてなしを受けた。この時ザトペックは「われわれの時代のマラソンはアート、今はサイエンス」とうまく表現した。医者だけにロザは、優秀なジェネテイック(才能)、高地での軍隊的な厳しい規律ある猛練習の成果という。もちろん、ロザはケニヤの貧困社会背景に強いインパクトを与える、名声、賞金らの「アメ」が必要条件なことは言うまでもない。同じような条件で、彼の論理を証明するためだろうか「デイスカヴァリー・アメリカ」が、サンデイエゴのラグーナ山の2000m高地で昨年の夏から始まった。アメリカ選手が6分台で走るときが来るだろうか?
2001.4.29.return to home 】【 return to index 】【 return to athletics-index